歩合制に騙されるな!!

最近、YouTube、インターネットや本屋などで完全歩合制にすれば残業代が減額できるような記事をよく目にする。

特に、働き方改革で労働時間規制が行われ、残業代のトラブルも増えてきている運送業界特有の事情が影響し、運送業は歩合制にしなければ生き残れないなどの文言も目にする。

歩合制は救世主なのか。歩合制が増えているというが、ある事業場になぜ歩合制導入を考えたのかを聞いてみた。

すると、下の事例のような残業代が魔法のように消えた資料を見せられた。

歩合制のメリットを強調して固定給と歩合給の比較をし、下の事例のような設定(そもそも残業100時間とすること自体がいかがなものか)では、残業代が6分の1くらいに減っているのである。お見事!一瞬信じてしまう。

            事例(数字等は分かりやすく簡潔にした。)

① 〈月給=固定給30万円の会社〉

30万円÷170×1.25×60≒13万円

30万円÷170×1.50×40≒10万円(60時間超え1.50

合計残業代23万円  総額支給53万円

② 〈月給=歩合給30万円の会社〉

30万円÷270×0.25×60≒1.7万円

30万円÷270×0.50×40≒2.2万円60時間超え0.50  

合計残業代3.9万円 総額支給33.9万円

このようなトリック的な事例で、労働時間が長時間になりがちなトラック運送業では、経営的には歩合給の導入するメリットが大きいと説明している。

 

確かに労働基準法第27条に「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。」という出来高払制の保障給に関する条文があるので、保障給を決めていれば、出来高払い制=歩合制は違法ではない。

そして、上記の計算の根拠が労働基準法施行規則第19条第1項第6号である。

 

労働基準法施行規則第19

法第37条第1項の規定による通常の労働時間又は通常の労働日の賃金の計算額は、次の各号の金額に法第33条若しくは法第36条第1項の規定によつて延長した労働時間数若しくは休日の労働時間数又は午後10時から午前5時までの労働時間数を乗じた金額とする。

六 出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間、以下同じ)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額」

   この条文に関する「歩合給の割増賃金」の計算方法について、

インターネット等で探してみると、目についたのが東京労働局の『しっかりマスター労働基準法 割増賃金編』である。

  左図(『しっかりマスター労働基準法 割増賃金編』6ページから抜粋)では、19万円の歩合を稼ぐのに190時間かかったので、歩合給19万円は190時間に対する対価である。

それでは、法定内労働で稼げたのはいくらか。

単純計算してみると、1,000円×172時間で172,000円である。

よって、190,000円から172,000円を引いた18,000円は残業時間の18時間で稼いだことになる。

この部分は残業代として歩合給で支払い済みなのである。

これに法定割増分の0.25を加えた金額(1,000円×0.25×18時間=4,500円)が、本来の法第37条の割増賃金となるわけで、計算すると、(18,000円+4,500円=22,500円)が実質の残業代である。けっして、4,500円ではない。

所定内労働賃金172,000円と残業代22,500円で194,500円となるのである。

 

これをもって、(1.0の部分は歩合給で支給されていることを無視して)あたかも割増賃金が0.25だけでいいので、割増賃金の支出が抑制できるような誤解を与えるのはよくない。残業をすればするほど残業時間の単価が下がるように誤解される。

さて、冒頭の事例が魔法のように残業代が減っているのはなぜかを検討してみる。

【そもそも比較がおかしい】

事例は、①の月給固定給は170時間に対する賃金で、の歩合の月給は270時間に対する賃金である。比較するなら170時間どうしでなければならない。

②の例で170時間で30万円の歩合給を稼げるならば、100時間残業すれば歩合給はどれくらいになるのであろうか。170時間で30万円なので、270時間になれば、単純計算で1.5倍の歩合を稼げるので45万円になる。

つまり、比較するなら②は次のような計算で比較すべきであろう。

② 〈月給=歩合給30万円+(残業分歩合)15万円の会社〉

450,000円÷270h×0.25×60h≒2.5万円

450,000円÷270h×0.50×40h≒3.3万円  

合計残業代5.8万円   総額支給50.8万円

 歩合の場合、個人差があり、かつ、計算が複雑でなり、この設定どうりにはならないが、冒頭のようなマジックのような残業代にはならない。

また、事例で②の歩合給30万円の金額を中心に検討するのであれば、30万円は労働時間270時間に対する歩合なので、①は170時間なので、30万円の170/270となり、固定給19万円とすべきである。

② 〈月給=歩合給30万円の会社〉

30万円÷270h×0.25×60h≒1.6万円

30万円÷270h×0.50×40h≒2.2万円  

合計残業代3.8万円   総額支給33.8万円

① 〈月給=固定給19万円の会社〉と比較すべき

19万÷170h×1.25×60h≒8.4万円

19万÷170h×1.50×40h≒6.7万円  

合計残業代15.1万円   総額支給34.1万円

 

次に、歩合には様々な要素があるが、走行距離でみた場合

①〈月給=固定給19万の会社、所定労働時間内の走行距離500km〉

19万÷170h×1.25×60h≒8.4万円

19万÷170h×1.50×40h≒6.7万円  

合計残業代15.1万円(残業で走行距離250km) 総額支給34.1万円

②〈月給=走行距離750km歩合給30万円の会社〉

30万円÷270h×0.25×60h≒1.6万円

30万円÷270h×0.50×40h≒2.2万円  

合計残業代3.8万円     総額支給33.8万円

 

 

 繰り返すが、保障給を設定した「歩合給」は違法ではないが、労働基準法は労働者保護の法律なので、労働時間が長くなると時間単価が安くなるような制度はおかしいというだけである。

出来高払い制(歩合制)とは】

そもそも出来高払い制(歩合制)とは、成果を出せば出すほど賃金が増える制度である。残業代を含めた売り上げから逆算で歩合給を決め、残業をしなければ最低賃金額でしか保障されない賃金であれば、公序良俗に反するおそれもある。

歩合制の労働者は成果を出そうとすることが多いため、生産性が上がると考えられ、これにより無駄に引き延ばした労働時間に対して残業代を支払うことが少なくなるという詭弁は、運送業の場合はどれだけ有効か疑問である。

「真に歩合給なのか」が厳しく判断された場合、裁判上で歩合給制が否定されるのではないか。

仕事の成果によって決定する歩合給は、既に結果が出ている、いわゆる「過去の評価」によって決定されるべきもので、一度上昇すると原則として下がらない賃金制度と違い、毎回毎回変動することも考えられ、不安定な賃金形態いなることも否めない。 

【労働時間の原則は】

そもそも労働時間の原則は労働基準法第32条の1週40時間、18時間のことである。恒常的な残業時間を考慮しての歩合制はいかがなものであろう。

また、国際自動車事件の判決でもあるように、労働基準法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは、使用者に割増賃金を支払わせることによって、時間外労働等を抑制し、もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに、労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解されるとしている。

これらの2つの条文(第32条及び第37条)を前提に第27条(出来高払制の保障給)を考えるなら、時間外労働をさせる場合は「通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額」に割増賃金を払わなければならないことになる。つまり、残業をすれば、残業をしないときよりも賃金が増えるということにならなければ法第37条違反ということである。

 

(労働時間)

32条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。

使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除1日について8時間を超えて、労働させてはならない。

(時間外、休日及び深夜の割増賃金)

37条 使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の25分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が1箇月について60時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

 

歩合給を会社が導入するためには、割増賃金と通常の労働の賃金を明確に区別していることや、それを就業規則等に明確に示して労働者にも説明していることが必要であり、歩合給の時間あたりの算定式が最低賃金を上回り、合理的な算定方式が採用されていること及び労働条件に明示されていることが必須である。

 

 

【トラックドライバーと歩合給】

何も、労働基準法第27条の出来高払制やオール歩合給制度そのものを否定をしようとは思わない。

しかしながら、何度も言うが、これらの出来高払制は、残業をすれば賃金が減るような制度ではなく、成果を出せば賃金がプラスされる制度であるべきである。

集客についてドライバーの工夫の余地がある業務遂行上の裁量が多いタクシー運転手であれば、心情的には理解できるところもあるが、貨物を運送するトラック運転手には少し無理があると思われる。

運送業で歩合制を導入する場合は仕事に裁量があるのか、運行管理者が作成した運行計画に基づいて、荷主に物品を配送するという計画性の高い業務なので、タクシー運転手ほどの自由裁量がないと思われる。歩合給制度をするなら、少なくとも労働者に歩合が上がるような仕事の選択が可能な場合が必要であり、トラックドライバーのような、はじめから運行計画を与えられている場合の歩合給は、単なる残業単価抑制だけのものであり、法の趣旨の出来高払制といえないと思われる。

他にも、保障給をどのように決めるのか、歩合の種類や係数はどうするのか、売上金額や利益に連動させるのか、ポイント式や目標設定を行うのか課題は多い。そして、歩合給の計算は毎回変動するが、どのように計算するのか、このように考えるとメリットがあるのか。

 

 

(労働条件の明示)

基準法第15条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

施行規則第5条 使用者が法第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。

三 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項